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詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

イラスト詩詩文控2

【28】


「あそぼ」

beat the rhythm
the rhythm in the spoken language


君を見ている
君のリズムを
とっている足

手の中の
湿った砂
何か言いたくて
たまらない
孤独

りん・・、と
薄い胸から
発する
十代の君

砕けたコップのある
しがらみ
フックのある
君の部屋

君を見ている
うす闇のなか
ページをめくる
音がきこえる

乱暴なやり方で
ギャーギャーわめく
鴉たちが好かない
この国の朝

しなやかな肉体が
スピーカーみたいに
見える
リズムだけが
彼女を解き放つように
思える


【29】


one's hidden intention
I myself have my own firm ideas.
KAMOME STUDIO
「世界は眠りに溶ける」


ほどいてみたくなる、自分を
光りのなかに草や風の匂いが
あるのかを

  心揺さぶるような世界の中心で――

海に混じりけのない、骨が
皮膚のなかに大地が、
もうひとりのわたしがいるかを

  「ええ。でも。誰も真相を知らない・・」

今宵も月の下で、ワルツ
恥ずかしがり屋だから
少し笑いすぎてしまうから

  出口がわからない。西か東かも――

夜の空気が迫ってくる、吠えながら
どこまでも青い
この最果ての地に

  「新しい皮膚が食い込んできている・・」


【30】


a fancy flight
the power of bewitching


 わたし、それなりに、うまくやれそうな気がするのよ。
 それなりに。
 ああ。でも。ため息がとまらないなあ。
 どうして?
 どうして?
 どうしてだろう、気障だから?
 気障っていい言葉だわ。
 ゆっくりと化石になる。
 フィルムが巻き戻される。
 朝の光が鏡のようになる。
 みんなバランスがくずれて、
 この世の中ら転げ落ちていくような気がする。
 部屋の隅に置かれたテレビが発光する。
 さて、わたしは出勤する。
 滑らかさ、直線、丸み、長さ、艶、
 すべてにおいて完璧な箒のうえに跨って、
 魔法の呪文を唱える。
 といっても。
 別に唱える必要もないんだけどね。
 
 感覚の中の触覚が、
 手触りと、反発する戻りに目がくらむ。
 おびき寄せて閉じ込めておく不思議な力が、
 洩れだす。ずん、とした瞬間、力を抜く。
 すると、箒の先端部が斧のような顔をする。
 炎ー獰猛な蛇みたいな表情。
 半ば重力に逆らうように手ごたえがなくなりながら、
 空を飛ぶ。気難しげな動作もどこへやら、
 あたしは空の狐火になる。

 風景は哀調をおびたシティオヴサイエンス。
 半ば書体じみて、記号めいた、それでいて、
 インクの匂いがしないのが不思議な、
 よく乾いた・・

 宙返りしてみる。月に手が届くほど、
 そこが川に思えるまで。
 あたしが、船となれるまで。
 きっと遠い昔から空を盗んでいた、
 あたし達、魔法使いの狂いのない板張り。
 空のはるか上に見えたマストのような、
 魔法使い。

 いくつもの町というばね細工を外して、
 都市の図表を瞳のカメラにおさめていく。
 あたしは夜が好きだ。
 夜には魔法が充ちてる。
 鈍感で間抜けな人間にも、
 月光の下で澄まし顔をするのは、
 たぶんこんな理由だ。

 さて、急がなくては・・
 鳥瞰図ークローズアップ。
 二階の北向きの洋窓。
 古色蒼然の洋館。
 窓へとすっと滑り込むと、
 ジューと音が鳴る、そしてすぐに、
 カーテンが閉まる。
 雨戸が閉まる。
 高級な椅子。
 車椅子に座ったネコの上司。
 噂では千年以上生きてるらしい。
 尻っ尾が九つある。
 立派な化け猫である。
 あたしは彼に、今日はどうか、と聞く。
 
 仕事がない日もあるからだ。
 しかし今日はあった。
 あたしは行き先を聞き、地図をひらく。
 色んな国や世界へと、お届け物をする。
 たまには異次元ということもある。
 
 遙か彼方に、ピントをあわせ、
 目におさめる星。
 空を泳いでいる気分だ。
 まったく音も立てずに散る空の花。
 星は軽やかな投げやりさにみちて、
 ゆらゆらと揺れている。


【31】


雨がきれいに洗い去っていった風の強いワイルドな夜。
たとえば、氷河がみしみしと軋む音が聞こえた。
上がったり下がったりしている何百トンもの氷の塊。
吊り橋を歩く気分と一緒で、半ば気が遠くなりそうだった。
だが、それを想像していた時の、俺は、ウィスキーを、
飲んでいた。申し分がないほど孤独なひとりの部屋。
抑圧が影のように時折、俺を叫び出したい気持ちに駆ったが、
俺の禁欲的な生活をあらわすものは、この胸から発する、
低い声ばかりだ。すり切れていたし、いつも壊れていた。
わけもなくドキュメンタリー映画の字幕を想像した。
むき出しの敷石。枯れた花に、鬱蒼と茂った木々。
伸び放題の雑草。ポンプがあるが、庭は隠れていて見えない、
そうだ、水が飲めない、次々と不幸な子供たちの写真が、
不気味なこだまのようにうつしだされる、迷路
クロロホルムを嗅がされたような夕暮れ。
そんな時は大概、俺は煙草を吸ってビールを飲んでいた。
感情が震えていて、仮に掌に載せたら鼠のように小さくて、
毛むくじゃらな、どぶにいるような奴だっただろう。
俺の記憶はいつだって曖昧だったし、向こう見ずだった。
階段はやたら狭かったし、亀がひっくり返されているように、
見えた。ドアには俺の頭があたった。ブラインドは壊れていて、
もう上がらなかった。シャワーは水しか出ない。
修理を頼むのに三か月かかる。
それで友達の家や、恋人の家で、
憂鬱で潤みどころのない人達の話をしながら、なんとなく、
こうやって人の口にはのぼらないものがあるんだろうな、
と思っていた。ハイウェーで死んだ友達。
そんな時、俺はとうもろこしを想った。
朝、腹が減る。何日も食べてないような気分で、
血を冷ます冷たい水や、冷たい風や、冷たい氷のことを、
俺は考え続けた。すべては、ぴったりと閉じている窓のように、
俺達を閉所恐怖症にするんだ。絶望を味わわせるんだ。
そして花嫁のような片頭痛。冷静にアスピリンを飲むと、
朝からもう拳銃をぶっ放したい、野生のミントの気分だ。


【32】


KAMOME STUDIO
「characteristic way of
     bearing one's body」
something that has united as one body


たとえば一瞬で性的な身体の特徴が伸びをする
動物の身体の色(肌色)-(皮膚)
長方体という立体におさまる。
足や腰の弾力性ー腹の横の部分ー体温
水辺にすむ鳥の嘴のように身体を向ける
彼女は身体をむずむずさせる
痒いわけではない。しな。
剥き出しの身体がセックスアピールをする
日光にさらすと細かい鱗が浮くように
彼女は水の中にいるのだ。撮影の間。
身体の中で流れる血が熱放射を開始する
体内の水分が欠乏すると同時に
霊がのりうつる。立体的な輪郭。
たとえば一瞬で性的な身体は太くなってゆく
彼女がカメラマンの向こう側へと向かって
ウィンクしたり鼻先で笑うたびに
魅力的だ、年齢が魅せる魔術(は、)
浮力の作用点にして電波を発する天体
心が身体に魂との交通を明かす
たとえば一瞬で性的な炎
生体において異物を排除しようとする反応
またある天体が他の天体を
さえぎって見えなくするように
彼女は不敵だ!


【33】


From Snow to Cherry Blossoms
the flowering season of cherry blossoms

桜 咲いてるね
炎 散るね・・
年輪から人生の物語が
うねるたび、
身をゆだねたくなる
スタツカァアト
すべてのものは水色
ひとりでは
抱えきれないものが
降り敷いて絨毯となった
疲れきった瞼を閉じる
と くるぶしに波があたる
足下には おたまじゃくし
泥のついた
花びらで――さ・・え・・・
レースを編み、模様をつけ、
そうだ、いまにも
口笛を吹くというのに
自分はどうな――ん・・だ
ねえ 揺れてる・・と 妻、
パパ きれい・・と 娘、
感情は高まって涙が出そうになったが
まだ堪えられる、きっと越えられる
春はいつも耳にしていた音の世界
を 掻き乱す
来年もまた こうやって見たいね・・
その次の年も その次の年――も、
変わらずに
こんな静かな歌を
みんなで聴いていたいね・・


【34】


cleanse sin from the soul
The soul is intangible.

その時、
波の泡は
砂へ
うねりへ
ひかりの音へ
風よ・・
くずれ――たか・・
溶けたか、
涎れたか、
あわいシャボンにうつる
スカイブルー
瞳の虹彩に・・はじめて、
見たように草原が
ドレスが
その無邪気な微笑みが
身体の奥底で
途切れることなく
お前への情熱を、
たぎらせ――る・・
不思議な女だ
そしていつも
俺の心には
色褪せることなく
お前が棲み続ける――
俺の胸を
まったくの
空虚のなかに
巣ごもった
そ――れ・・は、
かの二人を
魅了したる息吹
ああ、草はうごめき
かすかに揺らぐ
手に逆らう力
女よ、
快楽の丘よ
うとうと、と
まどろむ
俺の魂のふるさと
俺はここへ
帰って来――た・・


【35】


a large powerful wave
a long, wave-beaten shoreline


押し寄せる憂愁に
言葉にならず、羞かんでしまう・・
とみに冷気を覚ゆ、音を伝える波
――波は後ろへ引く・・
時はちっぽけな僕の感傷など知らない
知らぬまま、折れ曲がる波・・そし――て、
飛沫き、過去が石に思えてくる
それに、・・もんどりを打って仰向けになれば、
悲しみの波――喜びの波・・
打ち寄せてはまた返る、あの頃より――何か、
きっと違って・・見えている・・・
独り言を許せないウェイブ、
君は僕を蹴る、石ころの――よう・・に、
長く巻きつく、耳に海藻・・階層、
思い出は狂っている、忘れている、
何もかもが彷徨って――い・・る


【36】


雲と虹


虹が出た
空に美しい虹がかかっていた
七色が互いに入り交じり
淡い月の光を憶う頃
互いに溶け合う内に弓は引かれた
雨が止んだ途端のきれいな虹
少なくとも雲の上の舞楽にして
ターナーの詩的な表現が必要だ
そして僕は、立ち止まるのをやめ、
ラケットのように傘を振りながら
目を凝らしながら歩く――歩・・く・・・
虹のきらめきよ
数百の雲の国が軒を連ね
悲しみの暗い影――暗い・・影、
を連ねる、問題をうやむやにする
七色に染められたハアプは
本当はどれくらいの色を
連ねてるんだろ――う・・
遠い日の鼓動が甦る
たとえ触れられない雲だとしても
嬉しい、いまはただ、
そのままにしておきたい気持ちが
何となくしていたから・・・魂よ、
横長にたなびいて真珠のようでいろ
美しい――その・・美しい虹よ、
僕の目の前で女から母になれ


【37】


The green's out
――執事による一人称の手記――

location:翠色滴るばかりの庭。
cast:グリーンお嬢様。
   執事こと、私、あるいは、わたし。


彼女の名前はグリーンお嬢様、
翡翠いろがチャームポイントで
いかにもベジタリアンと見えますが、
ノッティングヒルの恋人よろしくの
フルータリアン。
さて、これからグリーンお嬢様、
お出掛けなんです。
「夏ですもの、お散歩に出掛けないと・・」
そう、執事のわたしに仰られて、
エレガントでシックな服を選ばれました。
そして、散歩に出掛ける前に、
いつもお飲みになられるグレープジュースを、
ふう、とひと息で飲み干されました。
これからお友達に会われるとのことでした。
少し、緊張されているのかも知れません。
・・・ところで、グリーンお嬢様は、
不健康そうな真っ白な肌とは思われませんか?
陽射しの中では――ひび割れ・・て、
いまにも崩れそうな硝子の印象で、
妖精みたいです。
「ふふふ、どうしたの、・・」
どうも、私はグリーンお嬢様を、
知らぬ間に凝視していたようであります。
いえ、お母様の若かりし頃の美貌を、
また――早くに亡くなったお父様の、
お優しい、気づかいを、思い出させます。
しかし、・・やはり私は心配です。
夢に漂う柔らかい睡蓮の花、
あるいは莟や、雪溶けのような、
まだ熟さない果物、あるいは野菜みたいに、
見えます。前者なら、メロンでしょうか。
後者なら、レタスでしょうか。
でも――グリーンお嬢様は大層、
アオウミガメなところがおありになって、
気性はお爺様ほどではありませんが、
好き嫌いが激しく、
けれど芸術的センスがあって、
絵を描くのが好きで、たびたび、アトリエに
こもっております。
恥ずかしがって何をお描きになられているのか、
私はまだ存じ上げませんが――。
「ねえ、爺っ?・・」
「はい、何でしょうかグリーンお嬢様」
「――あたしは、人嫌いかしら?」
おどおどとして、この家の主たるものが、
そのような態度をとるとはお恥ずかしい、
と思いながら、本当に、
グリーンお嬢様らしく、私は、首を振りました。
・・・無愛想な表情をしていても、
本当は人と接するのが苦手で、
どう踏みこんでよいのか、
わからないだけだと私は思うのです。
だから“拒絶”とは、とらないでいて欲しいのです。
グリーンお嬢様は、お友達が、
欲しくて、しょうがないのだと思うのです。
らんらんと笑ったり、喜んだり・・
私などには淋しそうな表情を、時折チラリと、
お見せになりますが、やはり不憫です・・
「変なことを聞いて、ごめんなさい、
出掛けるわ・・」
「いってらっしゃいませ」
そう声をかけながら、入口の樫材の扉を開け、
初夏の微妙な暑さと寒さのなかを、
とことこ、と――本当に、小人が転びそうな、
そんな足取りで、表の門へと歩いてゆきます。
足が悪くなければ・・そこまで、
お送りできるのですが、
グリーンお嬢様はやはりお優しく、
一度振り返りになられ、軽く私に手を振り、
口元を動かしました。――心配しないで。
そう言っているようにも私には思われました。


【38】


good feeling
really good weather
Good for you!

なんとなく今日はいい一日だったような気がするな・・・
   考えるのが面倒臭いとも言うがな・・・

おやすみあなた、
泳ぎの名手、
処世術の達人!

ぐっど! いい仕事した!
・・・上出来だ! 
ぐっど! 毎日どんまい!
――明日は大漁!
ぐっど! あんたいい奴!
・・確実な担保的存在感!
ぐっど! ろおりんぐさんだあ!
(very good...very good......)
ぐっど! すげえぜ・・旦那!
――背脂ぎとぎと豚骨スウプ!
ぐっど! 痺れるわあ~!
・・勇将の下に弱卒なし!!
ぐっど! えらい!
――男ぶりがよくて親孝行!
ぐっど! えらいと思います!
(Keep a good heart !―Be of good heart ! )
勇気を失うな!・・笑顔を忘れるな!
評判なんか気にするな!
ぐっど! ぐつぐつぐつ――ぐつと!


【39】


 The sea is ice-bound

憂いの果てに沈むという心の底でも
「リビドー」という、人間の心の深奥に潜む微妙なもの、
――は思っている・・網を引いて死骸を探した漁師のように、
カンブリア紀の深みから
今日の海洋底を越える厚みの堆積物まで
海水を蒸留して淡水を取る。海に生息することのできない、
ルビーの小箱を開け、そこに深々とたたえられた
探海灯をもって・・暖流と寒流の境目、打ちひしがれた心を
癒さんとする。 だが、不安に追い打ちをかけるように、
耳打ち。青い海は招く――はるか沖合から、
海が急にそう見えた・・嵐のような表情に・・・、
テマリクラゲ類の磯巾着系統の動き。
平らなウニのような海面の泡。海が凪ぐように、
私は潜っていた、海鳴りを想いながら・・、
この静かな場所は、ナマコの内臓、されど海面は鏡・・、
印象へと向かって無数の魚たちが泳いで――いる・・。


【40】


 有袋類的イグアナの眼した虫かと思った。/ー何を言っているの
だ?/高等脊椎動物外側の膜嚢に突き刺さる! 鎧をつけた-鎧を
つけた・・魚類、鳥の化、石背の羽根またはとさかのあるコックの卵、
/胚の奥の薄い膜。ひれ足。クロコダイルバツッグに完全に隠されて
いた胎児の栄養・・黄色い塊。/ー何を言っているのだ?/厚い壁の筋
肉。角質の突起。光を感じる感覚構造。重装甲な腹部を持つ彼等に
よる遊泳。/ダーウィン、絨毛膜の下にある血管の胎膜がテトラポッ
ドのように、思えるわた・・しは――異教徒か? しかし、想像する、
尿路に開口している消化管の端の空洞があるかのように、――津波・・
そこから、夜の残留-推定数万ヘクトパスカルの水が亀裂をうみ、
シロテナガザルの瞬間だ!/ー何を言っているのだ?/虫が付く-と、
蛆が沸く。血が腐る。ミミズの寄生虫。ミミズの奇声・・いや、噴出
音。潰れる音・・潰れて久しい毛虫がワサワサと這う/複数の人たちに
話しかける時に使われる呼掛け。傷が腐敗して蛆。打ち上げられた
魚-イルカ・・鯨に“蛆”/黒山の人だかり-蟻山の煤の群れ、機械時代-
機械時代の時代精神的老いの寿命、情念による土壌有益の肥沃/樹木
の年齢-森林の年齢、火の中に棲む、鹿や兎-狸・・きつね・・・/ー何を
言っているのだ? 何を言っているのだ?/爬虫類の分類としての蜥
蜴類、人――は・・、ついに性どころか、他の種にまで同化し、呪われた
進化-あるいは退化を始めた、あらゆる環境を生き抜くために――/
ミュータント、アンドロイド-違う、彼等は科学者の、また戦争の人
体実験の産物。萌芽する異常な戦闘能力。/我々は彼等から見ればむし
けら同然だ。そして彼等は寄生虫を追い出せば、あるいは滅ぼせば、
この星を支配できることを知っている。/人は彼等のことを《卑劣な
旧世界爬虫人類》と言う、――だが・・彼等の神は頭蓋骨のそれぞれの
眼の後ろに、一対の穴がある爬虫類・・の――怪物・・・。


【41】


○熱帯の高木か、低木、またはつる植物。
○不完全に開いたハイビスカスの花のような――瞳に・・、鎮痛薬・・・。
○[涙]堅い殻に被われた堅果は貴重なオイルと植物象牙を産出する。
○[歴史]アメリカインディアンが石鹸として使った。
○[歴史の具体的表現]サポニンを含む果肉質の果実。
○そんな時に僕は、元の環境からかけ離れてしまって、絶滅することを想う。
○多肉性歯状突起のあるサボテン。
○[アフォリズム]茎あり、葉なく、花は悪臭。
○しかし熱帯の植物の中には食用、茹でてじゃが芋となるものがある。
○[疑問]でも――僕は花の匂いを表現したい・・
○しかし花は、花の名と匂いを結び合わせたもののイメージにすぎない。
○仮に花の匂いを数値化するとしても、ベースとなる“匂素”といえるものが必要だ。
○そんな時、ソロモンの封印(六芒星)のことを想う。
○[矛盾]しかし慇懃な絶えまない行列という夢幻劇。
○[矛盾の抽象表現]ぎざぎざに切れ込みのあるアーモンドの香り。
○ヴァシーリー・カンディンスキーの絵は何処へゆくのかと思う。


【42】


a stack of wood
the phosphorescent glow of decaying wood
wood that is floating on the surface of water

・・・ここは森です。
・・・・・・樹海の内部のとある森の一場面です。
・・・驚きませんか?
・・・・・・偏見に満ちた石化する森、
・・・ホラ―スポットとしての森ですが、
・・・・・・ペンキの下塗りから剥がせば、
・・・そこは何人も踏みこめぬ美しい森です。
・・・・・・森は、人に、幻覚を見せます、
・・・むしろデマを流させている、と考えます。
・・・・・・根拠がないことも、
・・・大きな流れの中では、野ネズミですし、
・・・・・・木は曲がる、木は屈曲する!
・・・木が動かないというのは嘘です。
・・・・・・ほら、彼や彼女は風で揺れ動く。
・・・揺れ動くことは、木が歩くということ!
・・・・・・漆や阿片、かぶれや湿疹など、
・・・また個人差さながら、木が、
・・・・・・合う、合わないということもあるのです。
・・・ここは森です。
・・・・・・木は水に浮き、木は燃えやすい。
・・・人の中にも実は浮きやすい人、燃えやすい人、
・・・・・・客観的に言えば、個人差があるのです。
・・・気功-超能力・・・不思議な力――
・・・・・・爬虫類-蛇・・に対するDNAレベルの恐怖。
・・・木をのこぎりでひいた後に出る木の微粒子!
・・・・・・木の匂いがします。
・・・おお!ああ!木の・・匂いが――しま・・す・。



【43】


「やあレノン、これからドライブかい」
「ああ、ポール・・神様の僕と一緒に君も来るかい?」
「遠慮しとくよ、豊胸手術した、オノヨーコに悪いから」
「そうかい、リンゴもハリソンもかい?」
「レノンは解散責任とらずに自民党、・・ラブ歌ってろよ」
「うん、イマジンな気分なんだ――あくろすざゆにヴぁーす」
「こっちも、バンドオンザランな気分なんだ」
「自転車だし、ひとりだけどね」
「レノン、・・そういうツッコミはいらないよ」
「うん、わかってる、寺行き過ぎて、禅きわめて俳句やってるんだ」
「わかってる、寿司と芸者に忍者」
「学校作ったんだって?」
「基本的に、愛と学問は同じってことさ」
「うまいこと言うなあ」
「ぐだぐだ、だけどね」
「ところで近頃の音楽は変わってしまったね」
「変わってないよ、ちょっとノリがわからなくなっただけさ」
「でもラップとか流行ってるぜ、ヘイユウポール、俺が・・、ハハハ」
「不良とか、俗悪の定義が変わっちまっただけさ」
「でも、こんな所で出くわすなんて不思議だな」
「まあ、イエローサブマリン、人生だいたいそんな感じ」
「カーペンターズのカレンが抜けた音楽の奇妙さ」
「でも、悪くない――ただ、自分は聴かない」
「そしてこれから君は何処へ行くんだい?」
「ちょっと待って、音楽の話をしてるのかい?」


【44】


 その小さな顔を囲んでいる


 エアコンの調子が悪くて蒸し暑い部屋。がちゃり、とドアノブを回すと、溶けだしそう
な気分になる。五十万・・百万、金、顔と名前の一致しない印象と同じ、お金、そこに、カ
ーステレオ大音量の地響きが聞こえてくる。マントヒヒのことを思い出す。
ビルの窓。横断歩道。花がある。ため息をつく。ため息とともにシャンプー液やパーマ
液のことを思い出す。腕時計-掛け時計。円形。四角形。
 ブランド物の財布、服・・化粧品――そして、視姦される-透視能力・・カウンター。レジ。
赤いLEDを想像する。真夜中の車の後尾燈が揺れているのを想像する。停車すると、バ
ックミラー越しに、何処の誰とは区別を使ない黒子たち。影。
 なんだか、シャワーカーテン越しに襲ってくるジェイソンのことを考えてしまう。
 先程まで私は美容室に行っていた。・・砂場や滑り台でのことを、たまに思い出す、イケ
メン美容師に背後に回られながら、どうしますか? 鋏の音。ピザ生地のチーズがとろけ
るような時間。自慢の長い髪にブラシをかけられると――煙草と酒の匂いのするスーツの
気配を感じる。もちろん、美容室にはない。包丁を立てて鱗を取る、鰓とかまの間に刃入
れて肛門に向かって腹を裂く。覗く気配-穿つ、と形容する自分は監視カメラのことや、盗
聴。そんな時に自分は生臭い海老の匂いを思い出すのだ。
 さまざまなウッドミントさながら――真夜中にクラクションを鳴らし続ける、スモークの
高級車-夜なのにサングラスをかけた男。街角に立っている外国人女性。鍋の灰汁をとって
いるような気がする。そんな時に自分は紋白蝶が羽根を閉じて止まっている様子を思い出
すのだ。声変わりした――少年が、汚れてしまったような気がする。
 そういうものに疲れとか、幻滅とか、言う――胃のあたりが重苦しい。水滴が落ちよう
とする・・瞼へと冷たい風が入ってくる。でも瞼は熱い。水滴がこぼ――れ・・る。
 周辺に表情がある。左手の指輪。揉み手。携帯電話。眉間にしわの寄った顔。およそ利
己的な人間の顔。・・私とその人達との間に通う愛情はない。あるといえば、着信ダイヤル
機能に、挨拶というメール機能だろうか。
 マネージャーが黒い手帳を取り出してスケジュールを教えてくれる。
眩しいテレビ番組――あ、また血とニコチンの味がする。鎖骨に氷をあてられているよ
うな気がする。氷をあてつづけると、耳たぶは冷え、ピアスを刺しても痛くない。虫の痛
覚遮断みたいだ。桜の枝から毛虫が次々と落ちてくるようなそんな想像・・
まがい物の真珠さながら、蝶にはなれず、道行く人に踏まれていく幸福な死、まだ熟す
ることのできない、生殖の望みを叶えることのできなかった不必要な存在。
(紙コップの珈琲に角砂糖を入れていく・・皿のラップを外したように、電子レンジの後、
湯気が出ている――棄てようと思っていたものが、もう既に沢山の人に捨てられていたこ
とを知る・・痛みはないことも、既に沢山の人が経験している)
コンビニは華やかだ。飲食店には行列。まるでスプーンで醤油や、みりんの調節をして
いるようだ。しかし部屋には、花・・薔薇に、百合に、石楠花――滑稽なほど、生まれて初
めて聴く音楽のようなふりをする花達の処女性。マネキンが着ているコートや、靴のこと
を考える。お似合いになります。店員が微笑む・・。
不器用で、しおらしくて、ブローチの針がワンピースを通して胸に刺さるような気がす
る。偽物の痛み・・偽物の得体の知れない言葉達だが、私の服にあるコサージュはいまネオ
ンのようにぼやけて見えた。
目の前でオレンジジュースを飲んでいる彼は、鏡の中で後ずさる。
プロデューサー、女癖の悪いという噂のある男。
(「――結婚しよう」)と言われたのは初めてではない。指輪をいとおしそうに撫でてい
る女と一緒になりたくなかっただけだ。断るつもりだ。でも、自慢もしない。高笑いもで
きない。唇を噛んで、私は本当の愛や、幸せについて考えている。
 クリームシチューが、眼球に付着している気がする。粘着質感覚、しかしすぐにそれは
土になり、鉢へと盛られる。束の間の温室となる。あたかも先天的な呼吸のように、植物
の甘い匂いと水気を含んで、眩暈を催させる花、――吐き気がするが、花のおかげで私は
若くなる。といって特別仲のいい友達はいない。友人たちが笑って・・いる――仮面をつけ
て、さっぱりした花の塩漬け――梅酒に梅の入っている・・よう・・・な、綺麗・・花吹雪。ブリ
ザードフラワー。シャンパンの空き瓶や煙草の吸殻。
 スリップを落とすと白い貧相な乳房が現れる・・私は女優。
 (手を出せないだろう・・唇はてらてらと光っている・・・)
 「お前、いかれてんじゃないか」と男は言う。
 ふふ・・・そうかも知れない。でもアンタよりはマシだ――。



【45】


少しでも沢山の命を救い、人の心を守ることだ
one's better nature


 しろい雲に、レイリー散乱の空の青。どこまでも続く草原といっぽんの木。近頃では、自
然景観は、もっぱらCG画像みたいだ。でも、プランクトンみたいな埃。匂い。手触り。そし
て膚にうける風はまだ健在で、ヴァーチャルリアリティーも追い付いていない。さまざまな
花の名前、植物の名前、図鑑を見れば事足りるのかも知れないけど、公園や遊歩道よりも、
ありのままがそこにあるという自然も大切だなと思う。まぶしい鳥の鳴き声。観光地という
よりも聖域と思えるこの場所で、自然と人との在り方について考える。縛られていた心は人
為によって捻じ曲げられているものだ。人はストレスを抱えているし、それに対する解決策
を休暇の中で見いだせているだろうか。仕事とは何だろう。たとえば、氷と炎のなかで理想
を見ることは必要だろうか? でもちっぽけな自分を知る必要性は感じているのだ。あの星
空が必要だ。海が必要だ。渦巻銀河を想像せずに、顕微鏡の小さなものばかり見る自分たち
にはもっと身近に悪意のない、裏表のない、環境が必要だ。広告看板を撤去し、自然の眺望
と同じく、芸術や、デザインが必要だ。しかし自然崇拝はやめよう、自然はそれ自体が哲学
で、露わな心なのだ。僕は野暮で田舎っぽい詩人の一面として、穏やかで心地よい自然の姿
に見とれている。僕の心を洗ってくれるのは、人ではない、と思う瞬間もある。時代が過ぎ
ても、僕等は進化したのか退化したのかと問うことはなくならないだろうし、科学や、文明
の行き過ぎた情報の混雑、何が正しくて間違っているのかという、選ぶのがより困難になっ
ていくさまは、欲望が抑制されることなく、野放図となっているからだろう。しかしひとた
び天変地異が起これば、自然への畏怖が起こる。同時に自然への感謝、生きていることの感
謝も起こり、人と自然と結びつきがいかに重要か、動物や、植物の共生という理想も、どん
どん、考えられていくだろう。こういうことが少しずつ理解されていくようになれば、新し
い不幸への優しさ、いたわりの感情も芽生えるだろうし、ドラマチックすぎる、ジェットコ
ースターと揶揄すべき感情の起伏も穏やかな波のように青くなるだろう。それに対する人の
心の弱さを、僕は感じる。保全や保護としてでしか、機能しない自然という言葉の淋しさを
想う。ゆえに環境写真や、環境DVDに、近頃では癒されたくない、と近頃つとに思うよう
になった。偽物を作る詩人という立場上、否定はむずかしいが、それでもやはり偽物のよさ
なのだ、と思わなければいけないと考えられるようになった。僕は足を運ぶ。そこで本当に
世界が平和であったらと思う。無駄なことが人の心を豊かにする。時に、僕は逆手にとって
矛盾する。答えはいくつあってもいい。そうだ、と僕は、もっと非人間的な考えを強め、無
駄を、自然の権利拡大と捉える。
 倫理や道徳としての、動物たちへの扱いのひどさ。道路で轢き殺される狸や狐や兎たち。
柵は必要だろう。いやできうるなら、動物たちにもエアバッグを、少しでも弱いものへの慈
悲をと僕は考える。残虐な人の心、嗜虐心もまた心の問題、環境の問題だと思いつつ、少し
でもよりよい時代にすれば、助けられる命があるのだ、と考える。人として、自然を愛する
ことは、少しでも沢山の命を救い、人の心を守ることだ――。


【46】


 「わたしは・・」とお姉さまは言う。
 そんなに高くもないし、低い声でもない。でも抑制が強く働いていて、その声を聞く人の
心を、やわらげてくれるような、――そんな声。小鳥の鳴き声も、川の音も、好きだけれど
、世界であたしが一番安心する声・・声――。
 「本を読みながら、ふっと思うの、」
 お姉さまは読書家で、町一番の知識人だとあたしは思っていた。でも、女性差別の時代、
しかも、病気がちで、お嫁にも行けず、本を読むことだけが生きる支えであったお姉さま
にとって、色んな話は、いつも本に対する話題だった。でも、町の誰よりも面白い話で、
あたしが、十年後、小説家になったのはこんなお姉さまを持ったからです。
 「ねえ、ジョディー、どれだけ読んでもわたしは読み飽きることがないの。でも、それと同じくらい、どれだけ読めば、納得できるだろうかということも、いつも――考えるの・・・」
 十四歳のわたしは、それから二年後に亡くなるお姉さまの言葉に、すごく、感銘をうけま
した。だってその言葉は、最高の読者であり、ある意味でもっともストイックな勉強者の態
度であると思えたからです。わたしが次の瞬間、何を言ったか――わかるというものでしょ
う。そう、終わらせてみたい。そういう気持ちを・・終わらせてみたい、と思えたのです。
 「お姉さま、わたし――小説を書いて・・読ませてみたい!」
 その言葉に微笑んだお姉さま、いまにな――って・・思います。お姉さまはもしかしたら、
わたしにお姉さま自身の夢を叶えてほしくて、そんな言葉をいったんじゃないか、と。もち
ろん、いまとなっては、わからないけれど、お姉さま、・・あなたの小説が読みたい、いまで
も小さなわたしです。


【47】


be on course for
membership of the elite


たとえば――私が誰かと君は聞いているのだね。
勿体ぶった言い方? そして君は分析する、高い学歴。
その余裕のある態度・・高い地位にある男性。
そして君はさらに推測する、『マルクス』を読んでいる。
クラシックの曲が好きな、典型的なインテリ。
煎じつめていけばこうだろうか、肉体的魅力に乏しい、
機械的辞書言葉、百科事典的博覧会の男、
  ・・・と、言ったところだろうか?
  コンプレックスを持つ、いわば優等生的な役柄。
   宗教にはまりやすい・・人に騙されやすい善人、
   社会のことを知らない官僚風な男!と・・。
     そうだね――まあまあ、いい線いっている。
      さらに言えば、何らかの薬を手放せない生活。
       痩せ型で、自分のことを『成功者』だと、
               思っている――。

特権意識がある。
エリート階層の一員という
自負・・批判に対して鈍感で、
リーダーシップをとれず、
チームワークプレイに向かない。
苛酷なキャリアのために努力をし、
過酷な訓練を課す。
そして人びとを屑と言い、
社会のゴミと言い、
まったく生きている価値がない、と言う・・。
 将来もしかしたら鬱病になったり、
  ――神経衰弱になるかも知れない、と考えたことがある。
  だが、エリートコースを歩いてきた。・・きれいな女よりも、
  いかに自分にとって都合のよい着飾り人形かを重要視した。
   わたしは『優れた人間』なのだ・・。



【48】


I adore baseball.


 プレイボールが告げられて、うんと涙が出た。彼の最後の夏・・忘れられない人がいて、き
っと十年後、二十年後、この夏のことを思い出す。そう想うと、自然と涙が出たのだ。わた
しはマネージャーで、実際は高校一年生の時の同じクラスの男子に恋をして、野球に興味が
あるふりして、三年間マネージャーを続けた、という経緯がある。しかし内実は、恋と青春
というわけじゃなく、むしろもっと男くさくて、ボール磨きをしたり、グラウンドにならし
をかけたり、白線を引いたり、――試合の日には、声出しすぎて咽喉を嗄らしたり、・・途中
から本当に野球のことが好きになっていて、部員のみんなのことを、本当に好きになってい
るわたしがいた。テレビでプロ野球の試合を見たりするのも、けして、ソフトボールの影響
をうけて、というわけじゃない。野球帽をかぶって、一緒に声を出して、汗を流している
と、心って次第に近づいてくるものなんだ、と思う。試合の記録をいくつもつけながら、打
率を出したり、打点や、本塁打・・「試合の成績より・・学校の成績の方がいいってどういうこ
とよ」――時間って不思議だ、彼や、彼のチームが・・わたし、わたしのチームになってい
て、たとえ優勝できなくても、本当に少しでも上に勝ち上がってくれたら、という健気な気
持ちがいまのわたしにはあるのだ。スコアボードはゼロ更新が続いた。わたしの片想いして
いた彼はピッチャーで、一年生の時からプロ野球のスカウトが見に来るくらいの才能の持ち
主だった。けれど、故障続きでその実力をふるわないまま、いま、準決勝の試合。相手は優
勝候補のチームで、毎年のように甲子園へと行くチームだ。練習時間も違うし、設備も違
う。でも、汗を流したのは、環境が整ったチームだけじゃない、とわたしは思う。彼は鬼気
迫る表情で、ボールを投げ続けた。ゆうに時速百五十を超える彼の球。のびやかに振りかぶ
って、踊るように足を踏み出してフォロスルーに至るピッチングフォームは村山実そっくり
だ、と誰かが言っていた。そして九回表、四球を出して併殺、ダブルプレー。クリーンヒッ
ト。二塁への盗塁をされ、バッターは今日既に二塁打を二本も打たれている相性の悪い五番
バッター。一年生ながら、今大会でもっとも多い本塁打を稼ぎだしている、将来有望な、も
しかしたら彼にもっとも似通った選手なのかも知れない。彼は投げた、・・・そして打たれた。
ヒットで三塁一塁、最悪のピンチだ。マウンドの彼は、既に疲労困憊だ。既に三振は十五を
超えていたが、そのせいで球数は増えている。でも、それも仕方ないのだ。彼はパワーピッ
チャーで、怪我を恐れず闘志を前面に出すタイプ。わたしは、監督から伝令をうけて、この
グラウンドの何処よりも高いマウンドという孤独なエースのいる所へ。「あなたに任せるん
だそうです、頑張ってください・・六番打者は今日ヒットを打っていないけれど、もうこうな
ったら、運も何もありません」とわたしは言いながら、彼の顔を見た。「今大会でもっとも
素晴らしいピッチングです」・・「勝ってください」と言うと、風が吹いて、わたしは何か悪
い予感がしてマウンドを降りたのだけれど、背中越しに彼の声が聞こえた。
 「なあ、三年間、トレーニングに付き合ってくれてありがとう。・・」何弱気になってん
だ、と振り返ると、彼の瞳はすごくぎらついていた。・・ベンチに戻ると、彼は早々と三振に
打ち取って戻ってきた。「マネージャー、甲子園行こうぜ・・みんな、こいつを甲子園連れて
いこうぜ」と彼が、殊勝にもそんなことを・・言った――。



【49】


limited competence

時がすれ違うのを見ながら、
本当に一瞬だったけど、
才能っていうものが、
どういうものかわかった気がした。

越えられない高い壁も、たくさんの失敗も、
  才能を酷使したためのものだ。

 success story
Can anyone believe you?
 Do you believe it at all?

 クラスで背の高い奴がいて、バスケのセンスが凄い。自分がどんなに努力したって、あん
な風に、背は伸びない。考えてみたら、バスケットゴールにダンクシュートを決めたのがカ
ッコいいとか、いわゆる漫画で入った口だから、シューズを買ったり、ユニフォームを買っ
たり、NBAの試合のDVDを観てるだけで満足なのだ。でも、どうしてか、高い山に登っ
てみたいと思った。陸上部じゃないけど、もっと先へ、走ってみたいと思えた。
ガタンガタンガタンガタン

「言い訳っていう才能があるんだな」と彼は言った。
 「信じてるなら・・」

the inexorable passage of the seasons
(人の力では動かし難い季節の移り変わり)


【50】


KAMOME STUDIO
「a boy who delivers
newspapers」
2012.6.10.23.52.
He earned money
by delivering newspapers.


走ります、走ります、ブウブウ・・ぶお――ぷすぷす・・
新聞配達ですよ、郵便配達じゃ、ありまてん、ところてん

夜でも出ますよ、ジュース買いますよ、
(プウプウ・・くせ――おいこれ、おならじゃねえか・・)

チラシの折り込みしてますよ、店で留守番してますよ、
(グオオオ・・お、いけね・・マジで寝ちゃったよ・・)

「あ、空が
明るんできやがったな」

「ああ、天気はいいし、
子供たちはキャッチボール、
猫は昼寝・・俺は新聞配達・・
そうだ、俺は新聞配達・・・」

楽しいなあ
――苦労も知ってるけど、やっぱり俺、
 新聞配達が好きみたいです――


【51】


came down for the wedding

a bell for ringing at a wedding ceremony
a musical composition played during a wedding procession


結婚おめでとうの席で、さっきボソボソと花嫁が花婿に言っていた言葉は何?
「愛することを教えてくれて・・ありがとう」
と言っていたらいいなあ、それに対する花婿の返答。
(注、フィクションですよ、もちろん! 信じちゃ駄目だよ! 危ない人だよ!)
「君がいて笑って泣ける毎日を想像するだけで、・・僕は泣きそうなんだ」
うげっ・・吐きそう。そりゃ引き出物に顔写真付きの皿、
料理けちったなあ、祝い金のもとがとれない。
「初めて出会った時から眩しい君へ・・ずっと傍で、笑っていてね」
とか、いきなりポエムやっちゃうパターンだよ。痛い。
でも祝いの席だし、わりといい感じじゃん、
と思えるから、うむ、と思える。お父さん、顔真っ赤になっちゃってるけどね。
「君に触れたくて触れたくて、いくつの夜を過ごしたろう。いま、堂々と君を抱ける!
もう誰も変に思わない・・だって僕等は結婚するから!」
グハアッ・・と喀血しちゃう感じね。でも、若いっていいな、
そういう台詞、四十じゃ言えないよ。
「あなた、・・わたしをめちゃくちゃにしてね」
グハアッ・・しかし今度は、ケチャップかな。安っぽいけど、好きだなそういう台詞。
「悲しいことがあるたびに、可愛い君を見て癒される。君の優しさが・・僕を励ます言葉が、
世界中で一番の応援ソングなんだ! 愛のこもった、お前からのおっぱいビームなんだ!」
ちょっと待てやあ! なんか恋愛ものから、急にシモネタになっちゃってるだろうがあ!
ガルル・・ガルル、観客はみんな納得しないだろうがア!
「ずっと好きでした・・あなたと笑って泣いた日々、
・・あなたのための後ろから包丁でグサッ!」
ちょっとやめてやめて、何か急に、サスペンスみたいになっちゃってるじゃないっすか!
「好きよ好きよも手練手管・・ちょろいな、この男、これでわたしは安心トクトクパアク!」
・・・とんとん、と誰かが僕の後ろに立っていた。なんだよ、いま、台詞いれてんだよ。
とんとん、うっせえなあ、と振り返ると、あ・・ニコニコの花婿と花嫁さん。
「何してるんですか?」「何ですのそれ?」
「・・いやあ、二人のためにネタ用と、もうひとつの、
ハッピーウエディング用を作ってるんですよ」
(作りますよ、もちろん、朝ドラみたいに、めちゃめちゃ、うさんくさいやつ!)


【52】


Wanna coffee?

珈琲はやっぱり現代人にとって最高の香り、といえるのかも知れない。
いつかそのオリエントの未知-いや、世界は広いと思わせる薫りに、
想像力はその性質を屈曲させ、その煙は、麝香となり、
   マリファナとなった。そしていつか、広大な大気となり、
    大気圏となった-雲が浮いていた・・僕が、
    そこに浮いていた。珈琲いろの闇の中で、
     白いカップは美しい対比だった。たとえそれが、
       一般的概念だとしても、そこに宗教がある。
          神と人がいた。僕と君がいた。
           世界はかぎりなく自然における、
            すべての変化について、
             説明していた。
            そしてそれは、
            たった一杯の、
            珈琲で
            ある!
             と。


あっちに、仕事場、
こっちに、給湯室、
それでこっちに自動販売機。
ブラジルとかキリマンジェロ
とか、むやみに複雑な広告。
でもそういうのに慣れてる
んだな、複雑だけど、ごく
自然だって思ってる。
そしてそれもまた
現象を包括する
一般的な規則
に他ならな
いのだ!
 と・・


         光の屈折とか
        反射の法則とか、
        それなりに理解
       していることでも、
       幻想的でないことが、
     不可能へと向かう道で
   あることも思うのだ。
 カフェイン-手動ミル・・
コーヒー・カンタータのバッハ、
サラヴォーンの歌う、ブラック・コーヒー
ブラックコオヒイはいつも
      僕にとって、幻想的な
        闇だし、僕の
         ドリップ-トリップ。

たとえば都市を夢見る
 あなたにはこの一杯が
  コーヒーカップという遊園地の、
        あの乗物に見える。



【53】


美と劣等感
ーa beauty queenー


わたしはたぶんすごく、孤こどく、なのだ。だから、美くしい、花、
にあこがれるのだ。あんなに美くしくて、妬ねたまれないで、で、
褒っほめられる、花・・ありのままの姿の美うつくしさに。
でも自信がないのだ、ハリボテみたいだから。ペンキが剥はがれたら、
気さえ狂いそうな自分を知っているから、孤こどくに、このうわずった、
ふるえた声のように俯いている。人は、わたしの、耳を、笑う。
小さな頃だったので、すごくショックだった。両りょうしんは、やさしく
「かわいい。」と褒ほめてくれたけ、れ、ど、その美徳は、
うしろむきな世界で、あっという間に、こわれてしまった。
胸がふくらみ-腰はきゅっとし、心も、誰かを求めてさまようになった。
男性を受け入れる、準備は肉体的な合図にもあらわれていた。
でも、わたしは、孤こどくだ。わたしの、ことを、好きになってくれる・・
人がいない。それはわたしが、特別だからだ、と育ての母親のサラに
教おしえられた。わたしは、科学者が作った合成生物-エルフなのだ。
人と、猫とをあわせて、つくられた生き物・・その顔は、美形だ。
ありえないほどの、美形-美貌。でも口の悪い人は、整形手術さながら、
という。選んだわけじゃないのに、好きでこの顔をしているわけ
じゃないのに。勝手に「あなた。」と思われ、勝手に「わたし。」
が一人歩きする。性的対象にされ、生まれた頃から、商品と思われ、
事実、そのような価値づけのなかで、わたしはくらい思春期を過ごす
だろう、と思った。15歳のわたしは、メリー・リードや、
アン・ボニーに憧れていた。恋ができないなら、いっそ、
女海賊になりたい、と思ったのだ。わたしは、いつも、キラキラし
た世界に、いたい・・そう願ってる――気を狂くるわせな・・がら・・・。


【54】


時間を超えて
You do run

a foul wind
a fair wind

run like crazy
run like mad
run like hell
run like the clappers

スポーツカーは、すべてのトラックを追い越した
新幹線は飛行機と競争した、戦闘機はロケットと、
そして人はやはり自分より速い生き物と闘う。

人はどうして走り始めたのかと、クラウチングスタートの男が言う。
彼は両手の指で自身の体重を支えながら、己の鍛練した筋肉-瞬発力で、
乳酸のする口内-口腔の、臭いを感じ取りながら、ピストルの音を待ってる。
槍投げ-棒高跳び、それから百メートル。
元々サッカークラブに入っていて、足が速いのを見込まれ、
中学時代に友達から誘われたのがキッカケ。
でも、サウンドトラックのない映画みたいに、
彼は目を瞑り、ぐっと顎をこころもち上げて、
ドスンと突き当たる人間の限界-
いや、自身の記録を超えようと目論む。
アドレナリンが分泌され、肉体はうなりをあげ、
怒った目をし、ゴールまでのシナリオを、
脳内で考え続ける。どうして人は走るのか、
どうして人は競争を続けるのか、
ああそれは本能の性質、
前頭葉の性質、
人は争う生きものだ。


【55】


わたしは黒猫、時を見つめる。
夜でも、わたしの目はよく見える。
そしてわたしの目には、壁に青と赤。
抽象的で、けれど、確かにそう見える。
わたしは、飼い主を捜す。
大きな石の陰にかくれていたナイルの蛇のように、
フランス窓が開け放たれていた革命の頃も、
夕闇押し迫る時間に暗澹たる想いを抱えた男を探した。
わたしは、自分を孤独と思ったことはない。
崖下の細い道さながらの路地裏も、好きだ。
寂しい場所へと行き、ひとり眠るのも嫌いではない。
でも、わたしは日が明るくなるにつれて、
自分が呪われていることを知るのだ。
わたしは人を嫌う。
黒曜石の瞳。なめらかな光沢のある毛に、
上品そうな顔。ぎこちなく疲れ果てたふりもしない。
昼寝もとったことがない。
でも、彼といるとわたしは安心する。
この世界が存在した頃から一番不幸な男。
あれはパリの人ごみだった。
わたしは彼を見失い、いま、わたしは日本にいる。
わたしは死なない。彼は死んで、再びまた生き返る。
不意に敏捷な足取りになって、
わたしは、すいぶん押し流され、
時のうねりの中で、置き忘れていた安心を、
ぐるりと向きを変え、この暗い毛の筋に、
指を入れて撫でられる感触を思い出す。
彼を探す都会で、彼そのものの群像。
人はすっかり変わってしまったようだ。
黒や赤のうるしを塗り重ねたような人びとの顔。
気持ち悪い顔、おぞましい顔。
小ぎれいにしているのに、魂の本質を知ろうとしない、
上辺だらけの人びと。
わたしは、時々淋しいのではないか、と問うことがある。
そうかも知れない。でも彼以外に触れられたくないのだ。
わたしは弓や斧を握っていた彼の頃から、
その瞳の奥のうかがい知れない意味に魅せられている。
動物だって、人だって同じことだ。
わたしには彼でなければならない理由があり、
彼の指先も、その膝の上で眠るのにも、ちゃんと理由がある。






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